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山崎豊子の長編小説の初映像化作品。3時間22分という大長編映画になったが、観ていて退屈になるという事はなかった。

この人の作品は、一応はフィクションではある。『白い巨塔』『華麗なる一族』今TV放送中の『不毛地帯』もみな一応はフィクションではある。だが、ご存じの様に読者に明らかにモデルが想像出来る形で、実話をそのまま殆ど脚色なしで用いる。

山崎豊子 - Wikipedia


特にこの『沈まぬ太陽』は、明らかにJALがモデルなので、結果として強烈なJAL批判作品になっている。飛行機のシーンもJALの協力は得られなかったようだ。まあ当然だろうけど。現実のJALは今にも沈みそうなので何とも皮肉なタイミングでの公開だが、それはJALはこの映画化を阻む事が出来ない程疲弊しているということでもあるのかもしれない。

主人公の恩地は、もう考えられないくらいの忍耐のお父さんである。それでいて、決して自分の信念は曲げない。こんな強い人間はそうそうないだろう。映画のメッセージとしても、この恩地をある種、日本人の美点を集約したイコンとして描いている様だ。当然美化しすぎという批判もあるが、制作者サイドからすると、それは批判にならないだろうと思う。

ただ、この恩地が輝くのは、国民航空(NAL)が考えられないくらい腐った体質をもっているからに他ならない。もう信じられないくらい隅々まで腐っている。自分の利権の事しか頭になく、決して責任を真正面から引き受けない経営陣。それも属人的な問題ではない。人が変わったところでその体質は変わらない。その腐ったルールに合わせる事の出来る人間しか決して上に行けないという構造的な問題。でもってそのスケールがでかいから、どうにも身動きがとれない。恩地の情熱をもってしても会社は一ミリも動かないのだから凄まじいものがある。もう、暗澹たる気持ちになる。そして、こっちは恩地と違って、現実世界と地続きだよなと思わせる強烈なリアリティがあるから、なんとも言えない。。。

また、この作品はある意味ではとてもタイムリーでもある。今、日本を襲っている不況は、日本企業の暗部を図らずも炙り出す形になっている。この映画の国民航空とはいかないまでも、この様な経営体質はある意味で日本企業の典型的な形であるからだ。その中で、再建をかけて体質の膿をだそうとする企業もあるし、そのまま沈没していってしまう企業もある。

もちろん、原因は不況だけではない。既に日本経済は成熟し、高度経済成長期のような爆発的な飛躍は訪れない。だが、企業の体制は、高度経済成長期の時ままを維持しようとしている。終身雇用と年功序列は、まさに高度経済成長期の遺産といっていいだろうと思う。それは、未開のマーケットを焼き畑を行うように爆撃する事が出来る余地があれば、維持出来るものかもしれないが、既に未開のフロンティアはそれ程残されていない。そんな中で企業の舵取りをしていくのは、以前ほど簡単ではないから、国民航空の様な腐った体制の企業は真っ先に潰れていくだろう。

確かにこの映画は極端な脚色がある部分もあるが、一体今企業とはどうあるべきかという示唆をあたえてくれる。その意味では、非常に鋭いメッセージをもっている作品で、本格社会派作品と言っていいだろう。

山崎豊子は小説家であるから、最後に恩地に希望を託す形で幕引きを行ったようだが、一体現実的な解答というのは何処にあるかという事は、観た後に考えざるを得ない。
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