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素敵な逸話を思い出した。
僕の好きなポプシーの話は、グッドマン(俺注・ベニー・グッドマンの事ですよ)のバンド・ボーイとして、プリンストンに仕事にいったときのやつだ。彼はバンドスタンドをセットアップして、ベニーの楽屋でいろんな用意をしていたのだが、ふと気がつくとベニーのためにいつも持ち歩いている煙草の箱の中には、一本しか煙草が残っていなかった。慌てて外に出て、どこかで煙草が買えないものか捜し回ったのだが、そのへんで目につくものといえば、並木道に沿って連なる大学の建物だけだ。いったいどっちに向かえば煙草屋があるのか見当もつかない。
「そのとき白髪のじいさんが一人こっちに歩いてきたんだ」とポプシーは言った。「よれよれのズボンにスウェット・シャツという恰好で、髪はぼさぼさだった。僕は走っていって、どこに行けば煙草が買えますかねと訊いたんだ。じいさんは僕の身なりに興味をもったようだった。僕はすごくヒップな恰好をしていたからね。黄色のカーディガン・ジャケットにペグド・パンツ、それにベレー帽さ。彼は僕に服の事を尋ね、何処からきたのかと訊いた。まるで火星から来た人間に会ったみたいな感じだったね。
僕は適当にじいさんをあしらった。そしてちょっと急いでいるんだよ、ベニーの為に煙草を買わなくちゃならないんだと言った。やっとじいさんは教えてくれた、こっちに二ブロック行くとキャンディー・ストアがあって、煙草ならそこで買えるよってね。僕は大急ぎで煙草を買って戻ってきた。すると演奏会場の前にいた若いのの一人が、あんたアインシュタイン教授とあそこで何か話していたけど、何の話をしていたんですかと僕に尋ねた。アインシュタインだって!僕はそのじいさんを用務員か何かだと思っていたんだ。考えてみなよ、ポプシー・ランドルフがアルバート・アインシュタインと話をするなんてね!そりゃよさようなじいさんには見えたけどさ、やれやれ、なんとアインシュタインだって!」
『さよらなバードランド』 ポプシー・ランドルフ p258-259
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