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[書評]毎月新聞(佐藤雅彦): 極東ブログ
ちょっと前に、finalvent氏が取り上げていて、抜粋だけでもとても面白そうだったので購入した。確かに読みやすく、含蓄があるエッセイだった。文体はとても素直で読みやすい。スラスラとページをめくる事が出来る。また、話も独自の捻りが少し効いているという感じで、肩肘ばったところがないのがいい。
個人的に好きなのは『オレンジの皮』。こんな風に、日常の些細なことから立ち上がってくる感覚というはとても素敵だなぁ~と思う。
また、『三角形の内角の和が180°であることの強引な証明』とかも好きだ。この人の表現の根本にあるバランス感覚はいいなぁと思う。
でも、一番素敵なエッセイは、やはり、『真夏の葬儀』だ。
佐藤雅彦氏は、伊豆の小さな漁村で幼少時代を過ごしたようだが、この人の感性の原点は、子供時代に培われてるのだろうと思わせるような、故郷、あるいは母への想いというのは本書の随所に見える。
そこでとりおこなわれる昔ながらの田舎の葬儀の情景描写は、人の想いというものの受け止め方について、なんともいいようもない美しさと哀しさを讃えているように見える。
一体、想い半ばにして、この世を去ってしまった人の想いというのは何処へいってしまうのだろうか?彼らの果たされなかった想いは何処へ行くのだろう?
答えを簡単だ。それを知る生きている者が引き受けているのだ。知る事はさほど難しくないが、それを引き受ける事は想像を絶して難しい。でもそれは、残されたもの達が生きる殆ど唯一の理由だと思えたりする。
このエッセイでは、漁船の汽笛という形で、死者とのこされた者たちが響き合っている。なんとも簡潔にして、美しい情景だ。そんな風にして、死者が本当悼まれている。
『真夏の葬儀』だけでも、このエッセイを読んで良かったな思う、底知れない名文だった。素晴らしすぎて言葉が出なくなった。
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