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モンキービジネス 2009 Fall vol.7 物語号 モンキービジネス 2009 Fall vol.7 物語号
柴田 元幸

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物語号

巻頭の村上春樹のエッセイが素晴らしかった。

これは、スイスのザンクトガレン修道院図書館の記念カタログの序文として書かれたものらしいけど、こんな序文を読んだら、多分それだけで素敵な気分になれるだろうと思う。

最初だけ少し引用する。

  小説家とはもっとも基本的な定義によれば、物語を語る人間のことである。人類がまだ湿っぽい洞窟に住んでいて、堅い木の根を囓ったり、やせた野ネズミの肉を焙って食べたりしていた古代の時代から、人々は飽きることなく物語を語り続けてきた。たき火のそばで身を寄せ合って、友好的とはお世辞にも言えない獣や、厳しい気候から身を護りながら、長く暗い夜を過ごすとき、物語の交換は彼らにとって欠かすことのできない娯楽であったはずだ。
  そして言うまでもないことだが、物語というものは、いったん語られるからには、上手に語られなくてはならない。愉快な物語はあくまで愉快に、怖い物語はあくまで怖く、荘重な物語はあくまで荘重に語られなくてはならない。それが原則である。物語は聞く人の背筋を凍らせたり、涙を流せたり、あるいは腹の皮をよじらせたりしなくてはならない。飢えや寒さをいっときであれ、忘れさせるものでなくてはならない。そのような肌に感じられる物理的な効用が、優れた物語にはどうしても必要とされるのだ。なぜなら物語というものは聞き手の精神を、たとえ一時的にせよ、どこか別の場所に転移させなくてはならないからだ。おおげさに言うなら、「こちらの世界」と「あちらの世界」を隔てる壁を、聞き手に越えさせなくてはならない。あちら側にうまく送り込まなくてはならない。それが物語に課せられた大きな役目のひとつなのだ。
 『monkey business 2009 Fall vol.7 物語号』p14~15

聞き手の精神を転移させるという表現が、とても素敵だなと思う。

小説を読む人間が求めているのは、確かに、精神が別の世界に移ってしまう事で、優れた小説や物語は、おしなべて、現実をしばしば忘れ去れる力をもっているものだし、多くの小説や物語を好む人達は、そういった体験を求めて小説や物語を読む訳だ。文体がどうだとか、構成がどうだとか、やっぱそういう問題は二の次で、如何に読み手の精神を飛ばせるかが、良い小説や物語かの最初の判断基準になるんだろうと思う。

自分はあまり小説を好んで読む人間ではなけど、基本的に読書に求めている体験は、どれだけその本の中の世界に没入できるかだというのは同じだと思う。科学書ですら、その説明する世界観の魅力を感じとれば、しばし現実から精神は離れる。一番好きな作家の小林秀雄は批評家だけれども、あの力強い文体の魅力には、抗しがたく、心は純粋な思考の世界に没入する。

このエッセイでは、この後に物語そのものがもつ自律性について語られ、物語そのものはそれを生み出した作家に対してすらコミットメントを要求してくるという話に進み、それは非常に興味深い。

読者も同じように、物語によってコミットメントを要求される場合がある。もちろん、物語の大きな役目は聞き手の精神を別の場所に転移させる事にもあるとは思う。そして物語が終われば、聞き手の精神は自分の肉体に戻り、また現実が始まる。『ああ、おもしろかった』で終わる場合もあれば、その余韻がその日中は持続する場合もあれば、一週間続く場合もある。

でも、本当に優れた物語は、聞き手の精神を転移させるだけでは終わらない。その精神を変えさせてしまう程の強力なパワーをもっている場合もある。ある場合には、酔狂とでも呼べる状態にまでしてしまう事さえもある。

ジョン・レノンを殺害した、マーク・チャップマンは、殺害時、懐に『The Catcher in the Rye』を忍ばせていた。もちろん、それが全ではないが、『The Catcher in the Rye』がチャップマンに精神に多大な影響を与えたという事は間違いないだろう。その様に、物語というのはある場合には、非常に危険な存在にもなり得る。でもそこまで聞き手の精神に迫れる物語という意味で、やはり、『The Catcher in the Rye』は優れた小説だし、それによって救われている人間がどのくらい居るのかは見当もつかない。

ある小説や物語や本によって、人のその後の人生がガラッと変わってしまう。そういう事は、世の中では、結構な頻度で起きている。自分でもそういう体験は何度かある。別の世界に飛んでいた精神が、戻ってくると、現実がガラッと変わってまったく別のものに見えるようになっている。そういう体験を何度かすれば実感として分かることだけれども、現実もまた物語に過ぎないし、ある意味では、別の世界から転送されてきた精神がたまたま、今の肉体に宿っているに過ぎないと考えることはそんなに突飛な発想でもない。

物語とは、ある意味で現実を抽象化した存在に過ぎないけれども、それは、物語が現実を相対化できる力をもっているという事も意味する。そんな風に現実を相対化する力が、人に現実を生きる希望を与えたりする。そして、物語は自律性をもつものだし、それを生み出した作家が死んでも、何十年たっても、その精神転移の作用を残すし、ある場合には、その力を強めたりもする。もっと言えば、物語は現実の別の在り方に過ぎないのだ。だからこそ、実際の厳しい現実にすら拮抗できる希望にもなり得るのでないか?

このエッセイを読みながらなんとなくそんなことを思った。

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こないだエントリにしたと思ったら、

『拳闘士の休息』復刊!!

だって!

早速Amazonで注文しちまった。
出版不況と言われて久しいけど、こういう絶版になっていた良書が文庫で復刊なんて聞くと、なんかそれだけで嬉しくなる。

復刊を知ったこちらのブログは、管理人の方が有志でトム・ジョーンズの作品を翻訳されている。発見したときには嬉しくて、いろいろ読まさせて頂いた。

Octopus's Garden

多分、日本で唯一の作家トム・ジョーンズの情報サイト。翻訳以外にも、心あるレビューが読めて嬉しい。どうやら自分と同じ年の人らしいが、市井にこういう人がいると思うと、なんか心がホクホクします。
モンキービジネス 2009 Summer vol.6 箱号 モンキービジネス 2009 Summer vol.6 箱号
柴田 元幸

ヴィレッジブックス 2009-07-18
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春号は読んだので、夏号つっても、
夏も終わりです。秋号は10月20日発売!

春号に比べると、目玉的なものはないけれど、まあテーマが「箱」ですからね。
箱と言えば、個人的にはまず、安部公房の『箱男』が浮かぶなぁ。。。

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一番面白かったというか、素敵な話は、なんといってもリチャード・パワーズの『七番目の出来事』。これは、久しぶりに読んだ心がキューとなる感じの小説でした。ヒロインの生き方とかキャラクターがなんとも堪らないです。こういう女性はカワイイと思います。はい。素敵ですね。そして偶にはこういう小説もいいですね。はい。僕は、こういう負けると分かっていながらも闘い続ける人をどうしようもなく応援したくなります。特に女性。特に最近。

そういえば、パワーズの『われらが歌う時(上・下)』は読まねばと思いつつ買っていない。。。上下巻で、約7000円だからね。。。それに古川日出男の『聖家族』ですらまだ読み終わってないし、最近長い小説を集中して読み通す時間と集中力がもてないなぁ。。。でも、こんな素敵な短編読むと、買いたくなってくるな。

あと、気になったのはヘミングウェイの『in our time』かな。
柴田元幸の解説。

戦争や闘牛の一場面を印象的にスケッチした文章にも、また独自の魅力がある。誰もがなんとなく「文学的」と思ってきたような書き方をいっさい排して書こうとしている若きヘミングウェイの意欲は、これらの小品からいっそう生々しく伝わってくる。

『monkey Business 2009 Summer vol.6 箱号』  - in our timeについて p202-p203

ヘミングウェイは、『日はまた昇る』とか『武器よさらば』とか読んで、「ケッ」とか、「ふーんハードボイルドねぇ。。。」とか斜に構えてたけど(素直じゃない。よくない性格だ。)、素直にこの超短編を読んでみると、柴田元幸さんの言う様に、既存の文学に抗うようにして、自らのスタイルを確立しようとしていたヘミングウェイのエネルギーと不安が確かに伝わってくる気もして、なんかグッとくる。もちろん、それは内容とはあんまり関係ないけど、それが作中の若者たちの持つ不安と上手くシンクロしている。この短編を一生懸命書いているヘミングウェイを想っても、またグッとくる。
モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号 モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号
柴田 元幸

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今更春号でもないけれど、まあ面白かったので、
大きな書店ならきっとバックナンバーがあるでしょう。

対話号でなんと言っても注目なのは、村上春樹への70ページ近いインタビュー、インタビュアーは古川日出男。これは面白い企画ですね。『1Q84』から村上春樹を読み始めた人にも面白い内容だと思います。(『聖家族』がまだ読み終わらない。ごめんなさい。)

村上春樹は、小説家になったきっかけの話を何度もしているけど、その事を『エピファニー』と表現して、それを『僕の人生に起こったことの中では一番素晴らしい出来ごと』とまで断言でしているのは、僕が覚えている限りではない。『一番素晴らしい出来事のうちのひとつ』ではなくて、『一番素晴らしい出来ごと』という言い方がなされているのは。そして、その時の感覚が、60歳になるまでありありと残っているって、これは本当に素晴らしい出来事なんでしょう。やはり、この人にとって書くことは救いなんでしょう。本当に。多分奇跡は人生の中で何度かは起こるんだろうけど、それを大事にして生き続けられるかどうかのが大切なんて言うとちょっとアレだけど、それは穿らずに信じる価値があるとは思います。

インタビュー自体は、長年のファンにとってはそれ程目新しい事を言っている内容ではないけれど、面白かった。

あと、ジョージ・オーウェルの『象を撃つ』が興味深かった。オーウェル読んだことなかったけど、『一九八四年』も新訳が出ているし、読んでみようかな。

今や雑誌なんて、殆ど読まないけど、『モンキービジネス』は唯一追っかける気になる雑誌です。

拳闘士の休息 拳闘士の休息
Thom Jones

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今更紹介するには、随分と古い本だけど、篦棒に面白い。読み返してみたけど、やっぱり、めちゃめちゃパワフルな小説だった。

きっかけ、やっぱり村上春樹のエッセイなんだけど、その生い立ちからして、明らかに堅気じゃない。以下、村上春樹が彼から聞いた話。

「ベトナム戦争にずいぶん深くコミットしていたんだが(そのコミットについて彼は多くを語らなかった)、事情があって戦争そのものには行かなかった。それでちょっと頭がいかれちまって(ボム!)、フランスに行ってしばらく好きなことしてごろごろしていたんだ。でもいつまでもそんなことしてられないから、しょうがなくてアメリカに戻ってきて、広告代理店に入った。四十くらいまでそこで働いたんだが、俺はなにしろコピーライターとして腕がよくって、ばんばんカネが入ってきた。いやになるくらいもうかった。その頃にはジャガーに乗っていた。ジャガーだぜ。知っているか、ジャガー?知っているよな。いい車だ。でも仕事そのものはつまらなくてさ、会社を辞めて、今度は学校の用務員になった。そいでもって用務員を五年やってな、その間にばんばん本を読んだ。そしてこれくらいなら俺にも書けるぞ、と思った。用務員の仕事も結構しんどいから、そろそろ広告業界に仕事に復帰しようかと思ったんだが、入れてくれないんだ。広告代理店を辞めて学校の用務員になるようなやつはアタマに問題があるってさ、戻らせてくれないわけよ。それでしょうがないからせっせと小説を書いて雑誌に送ったら、『ニューヨーカー』が採用してくれたんだ。それでこのとおり作家になった。しょぱなから『ニューヨーカー』だぜ。うん、ぶっとんじゃうよな。」

 というようなエキセントリックで豪快な話を、僕はただぽかんと口を開けて聞いていたわけだ。そのときには海兵隊時代とプロボクサー時代の話は出なかった。持病のてんかんの話も出なかった。あまりにも話すべきエピソードが多いので、そのへんは、適当にはしょったのだろう。あるいは初対面の人間を相手にそこまでは話したくなかったかもしれない。でも短縮版でもじゅうぶんに強烈な代物だった。かなり狂気を含んだ話ではあるのだが、彼自身は―僕の目からみればだが―百パーセント正気だった。

『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』 私は・・・・・・天才だぜ p313~314

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まあ、ぶっとんだ人生だ。こういう人の小説が面白くない訳がない。(付け加えると、この人はアル中だった事もある。)で、当時(7~8年前だったかな。。。)から既に絶版だった唯一邦訳されている『拳闘士の休息』を入手し読んだけど、期待に違わず面白くで一日で読んでしまった。

ちょっと話は逸れるけど、村上春樹のエッセイでしらなかったら、まず読んでない作家だ。現代アメリカ文学の紹介という意味では、殆ど村上春樹と柴田元幸に頼りっぱなしな訳だけど、海外文学の場合、日本での解説者というか伝道者の役割は驚く程大きい。村上春樹は自身がレイモンド・カーヴァーやティム・オブライエンの翻訳者であると同時に、アメリカ文学の熱心なファンとして、ことあるごとに熱弁をふるってきた。昔に比べると、かなりマイナーな作家でも、邦訳されたりしている。海外文学の伝道者として村上春樹の存在は、その小説家として世界への影響力に負けず劣らず大きい。僕もかなり影響を受けた。小説はそれ程沢山は読まない方だけど、小説を読む場合でも、海外作品の占める割合は大きい。

トム・ジョーンズの作品は、残念ながら、この『拳闘士の休息』以外邦訳はなくて、それも既に絶版だけど、残りの作品も邦訳されたら是非読みたい。(洋書に手をだしてもいいんだけど、やっぱ英語で小説読むのはしんどい)

肝心の中身だけれど、登場人物達は、皆トム・ジョーンズの様にエキセントリックで、かつ正常な社会からみれば、落伍者。村上春樹も解説している様に、物語の中で重要なキーとなっているのは暴力だ。暴力によって、自分自身若しくは他人を傷つける事で、なんとか自分の人生に踏みとどまろうとする。落伍者ではあるが、社会への怒りと呼べるようなものは殆ど抱えていない。小説的な救いと呼べるようなものは、基本的に存在せず、現実に踏みとどまる彼らの姿が淡々と描かれている。そこの先に何を想像するかは読者に委ねられている。

ベトナムをモチーフをした短編もいくつかあって、僕の好きなティム・オブラインに通じる部分もあるが、オブライエンの小説の主人公が、現実を受け入れる為にしばし幻想を持ち出すに比べると、ジョーンズの主人公達はかなり潔く過酷な現実を受けいれている様にも見え、ユーモアやエキセントリシティーの陰に隠れているものの自己を規定するルールを明確もっている様にも感じられる。そういった登場人物達に読者としてはある種の憧れを感じてしまう。

Amazonに何冊か中古本があるので、興味がある人は是非読んでみて欲しい。とにもかくにも面白い事だけは保証します。
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