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派手さはない。能動的に鑑賞することを要求される映画。

ハリウッド的なドラマツルギーに慣れていると鑑賞するのはちょっとキツイかもしれない。「28歳の革命」の方は主にキューバ革命が成功するまで、「39歳別れの手紙」はボリビアでのゲリラ戦から政府軍に捕まり処刑されるまでが描かれている。共に、徹底したリアリズム志向、ドキュメンタリーに近い作りが全編を通して貫かれている。チェ・ゲバラのや歴史的背景に関する詳しい説明は殆どないので、予備知識を持って見ると良し。

チェ・ゲバラ - Wikipedia

今の時代、この状況下で、何故ソダーバーグ監督は、チェ・ゲバラを扱った映画を撮ったのか?そしてゲバラをどういう人間として描いたのか?当然、その辺に焦点を絞って鑑賞する事になる。というか、そうやって観ないと面白くない映画である。

「39歳別れの手紙」の終盤。政府軍に捕まり監禁されたゲバラが、監視役の兵士に「何を信じているんだ?」問われ、「俺は人間を信じている」と答えたのがとても印象的だった。これはゲバラという人間の魅力を読み解くキーとなるようなエピソード。

作中、ゲバラの思想は殆ど語られない。思想家としてのゲバラを現代に描くことの意味は確かにないと思う。ゲバラの思想の善し悪しも確かにあるだろうけど、ジョン・レノンが「世界で一番格好いい男」と言い、サルトルが「20世紀で最も完璧な人間」と評しているのはその思想とは全然関係ない地点だろう。ゲバラが20世紀最大のカリスマと呼ばれるのは、その人間性の魅力故であり、それに比べればその思想は重要な位置を占めない。

劇中のゲバラは、ルールに厳しい人間であると同時に、他人に対する優しさを片時も忘れない人物として描かれる。農民の食料を失敬すれば、ちゃんとお金を置いて行く。同志が死んだ政府軍の車を盗めば、返してこいと言う。同志が傷ついていれば、たとえ敵がすぐそこに迫っているとしても、絶対に見捨てない。そういう幾つかのエピソードから導き出されるゲバラの行動原理は、確かに今の時代にも意味をもつ。

今の時代の行動原理は、とりあえずは資本主義という事になるだろう。つまりは金が多くの局面で人の行動を左右するインセンティブになっている。で、昨年のリーマンショックに始まる一連の経済危機がある。それは、金儲けって事ばかりで世の中動いてくとやっぱりロクな事にならんという証明であると、僕は今のところ考えている。まあ当然といえば当然の話なんだけど、株式会社という資本主義の実存である所に勤めていれば、それが見えなくってもそんなに不思議ではない。現に一流大学を出た頭の良い人間が、貧乏人で金儲けをするという、小学生でもちょっと考えれば失敗すると分かるような事をやってしまう。みんながやっていれば、それがどんなに不合理な事であっても、簡単に信じてしまう。人間にはそういう弱さがある。

映画の話にもどる。

貧しい農民が搾取され続けている事にどうしても我慢ができなかった。ただそれだけの事がゲバラの信念、行動原理の基になっている訳だが、それは上で述べた様な資本主義という行動原理よりは幾分上等にみえる。そして、その行動原理を実践する事は、資本主義の行動原理で生きるより遙かに難しい。

もちろん、ゲバラにだって人間の弱さは分かっていたし、革命とはその弱い人間に、強くなる事を強いる行為だという事も分かっていただろう。その困難を痛切に感じていただろう。それでも、やはり「人間を信じる」。そういうゲバラの強さは確かにこの作品に描かれている。

「39歳別れの手紙」の劇中、ゲリラ軍が政府軍に徐々に追い込まれる中、ゲバラが、「革命家とはもっとも尊い種類の人間である」と同志を鼓舞するシーンがあるが、「それは人間の弱さを理解した上でも、人間の強さを信じる事が出来る人間であるからだ」と勝手に個人的な補注を付けたい。少なくともスクリーン中のゲバラの目はそう語っているように僕には感じられた。

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